――ねぇ、そうだよねぇ、わかってるよ。しんじてるの、ぜんぶわかってるけど、ききたい、いってほしい。「そうだ」ってことばが、ほしいの。
ひょんな事から友人に貸してもらって読んでみた「世界鬼」。
あまり絵が上手くなくて、1巻の最初の頃なんてWebコミックレベル…。
ストーリーは最近ありがちな異世界で戦うというもの…。
初っ端から胸糞悪い家庭内暴力や虐待の描写…。
「はぁ、また過激さが売りなだけのマンガかー。」
………なんて考えてしまった過去の自分をあずまたんのトマホークでぶっ殺しに行きたい!
(ネタバレを含みます)
このマンガ、アイデアの時点ではハッキリ言って「進撃の巨人」と同じような扱いを受けてもいいんじゃないかと思うほどのイカれたマンガです。(褒め言葉のつもりです)
では、このマンガを「ストーリー」「絵」「登場人物」の順に感想を書いていきたいと思う。
目次
ストーリー:程よくぶっ壊れた設定と次々に判明する設定の奥深さ
まずこの「世界鬼」における世界は私達の現実と寸分たがわぬ歴史・時代です。
その世界に突然現れる”世界鬼”と呼ばれる謎の生物!
そしてそれらと戦うために集められた7人の少年少女!(例外もいますが…)
戦いを強制する世界鬼によく似た「チェシャ鬼」!
これだけならよくありがちなストーリーなのですが、まず冒頭からかなり酷い虐待シーンが続きます。
無意味に虐待され、それに抗えない少女という構図にやり場のない怒りを誰もが抱くでしょう。
しかし、そんな読者の”怒り”は結局”他人レベル”だったということがわかります。
実際に虐待されていた少女…”あずま”はある方法で問題を解決しますが、それがあまりにも凄まじくてガチで度肝を抜かれます…がそれは後で。
さて、少女たちが巻き込まれた「戦い」とは、夜になると鏡越しに別の世界に連れて行かれ”世界鬼”と戦うというものでした。
世界鬼はもう半端なく強くて、大きさはまちまちですが色々な特殊能力を持っています。
ですが、人間側も一応体は強化されており、皮膚は爪程度の硬さ、肉は岩程度、骨は鉄程度に強化されています。
とはいえ、それだけじゃ”世界鬼”には対抗できないですが、彼らの特殊な”病気”のお陰でこの異世界では想像しただけで武器や道具を具現化できます。
それは「鏡の国のアリス症候群」。
この病気にかかっているかどうかが選ばれた理由のようです。
チェシャ鬼はいわばナビゲーターなのですが、あずまたちに戦闘を促します。
そして、この戦いでは”生命エネルギー”を消費して戦うことになります。
”生命エネルギー”は、正に言葉の通りで、このエネルギーを使用して銃や弾丸を生み出して戦います。
そして、世界鬼を倒した者はそのエネルギーを完全に使いきって死んでしまいます。
とはいえ、鏡の国のアリス症候群にかかっている人は少ないため鬼を倒す度に死なせてしまってはもったいない。
その解決策が”アリスの近親者の命を代わりに使用して鬼を倒す”というシステムでした。
要するに「アリスの誰かが鬼を殺すと、その殺害者の近親者が死ぬ」ということ。それは親兄弟だけではなく親しい友人でもよい。
ハッキリってこの設定の時点で「なるほどね、よりダークにしたいからこんな設定にしたんだ。」なんて思っていました。
しかし、実はこの設定は大きな伏線だったのです。
”世界鬼”がやって来るのは現実世界と対になったもう一つの世界で、彼らは世界と世界がぶつかり消滅する「対消滅」を止めるために止む無くコッチの世界を破壊しに来ている”人間”だったのです。
要するにアリスと世界鬼は世界は違えど共に人間同士だったということです。
ということは世界鬼を殺すということは人間1対1での小規模な”対消滅”だったということです。
このように、ダークな設定も後々の伏線として使っており、意味なく凄惨で過激にしているわけではない点が非常に良かったです。
そして少ないながらもところどころに入るコメディ?的なセリフ…。
こんだけダークなのにすこし笑えるところが怖いです。
絵はまだまだ発展途上とはいえ作者が描きたい部分は十二分に表現できている
近年では「絵が未熟」「絵が流行にあってない」というのはあまりハンディキャップにならなくなってきたと感じさせてくれるマンガです。
「進撃の巨人」「カイジ」「Working!」などなど…確かに手放しに「めっちゃ絵が上手い!!!」とは言えないですが、面白すぎるマンガが多いですよね。(下手だと言ってるわけではありません)
もうカイジなんか正直あの絵柄意外ありえないというレベル。
やっぱり絵が上手いかどうかは2番か3番で、ストーリーがどれだけ面白いかが重要だということです。
進撃の巨人も上手いか下手か私は絵心がないのでなんとも言えませんが、あの絵以外の進撃の巨人なんてありえない。
この「世界鬼」も絵が世間一般に言われる「上手な絵」とは言えないと思いますが、表現力という点だけでいえば絵が上手いか下手かはあまり気になりませんね。
上手く説明できないのですが例えば「駅はどこですか」と聞いてきた人に国土地理院並みの地図書いて渡さなくても、線と記号だけの簡単な地図でも十分ですよね…。
絵にもそれと同じことが言えて、”絵が上手くても表現力がない”よりも”絵が下手でも表現力がある”ほうが良いと思います。
この点では私が敬愛する”日本橋ヨヲコ先生”の”G戦場ヘヴンズドア”の主人公である堺田町蔵を思い出します。
彼も絵が下手だという設定でしたが「町蔵くんにしか描けない絵がちゃんと入ってるよ」という言葉はマンガにとってとても重要だなと考えさせられました。
一応言っておきますが世界鬼は絵が下手なんかではなく表現力が高く構図もかなり考えられていると感じました。
プロトタイプで連載していたWebマンガの世界鬼に比べかなりわかりやすくなっており担当さんと相当練られた内容だと感じました。
登場人物は一癖も二癖もある”アリス”
登場人物はそれぞれ”鏡の国のアリス症候群”という症状を持つ人達です。
全員紹介するのは厳しいので2~3人としますが、全員ぶっ飛んでいて最高です。
主人公の「東雲 あずま」14歳の中学生…とはいえその容姿は虐待による栄養不足か非常に小柄で小学3~4年生ぐらいに見えます。
社交性が著しく低く、言語や知識もかなり幼く感じられます。
父親が亡くなり、母親が失踪したため叔父に引き取られているが前述のとおり家族全員から虐待されている。
まともにご飯も食べさせてもらえず、殴る蹴るなどの暴力、叔父からの性的虐待などあらん限りの不幸な境遇です。
しかし、「世界鬼を倒すと身近な者が死ぬ」と理解してからは嬉々として世界鬼を倒そうとするようになります。
もうその殺しっぷりったら凄まじくて他のアリスの面々がチェシャ鬼によって「世界鬼を倒すと近親者が死ぬ」という事実を知らされ戦意を喪失している中で、ただひとり世界鬼に立ち向かい瞬殺します。
異世界では感情の強さがアリスの強さになるので、彼女は叔父家族への純粋な”殺意”によってあれだけ苦労した世界鬼を瞬殺できるようになってしまったのです。
正直読者である私も叔父家族にはムカついており「死ねばいいのに」と思っていましたが、実際ひとり死んだ後なんの躊躇いもなく作中初めてとも言えるほどの笑顔で「つぎだーれだ!」とは言えません…。
彼女は間接的に叔父家族を殺すことで初めて笑顔になり、世界は突き抜けるような青空になったのです。
それほどの殺意を小さいながらも幸福を知っている私達が持てるでしょうか…。
次に作中最大のキーパーソンの「瀬木 ひじり」。
正体不明の青年。プロトタイプではマニラ在住なんて嘘ついちゃいます。
彼の存在自体があれほど大きな伏線になっているとは考えもしませんでした。
まぁ途中あたりから「あれ?こいつあずまに関係してる…まさか文鳥ちゃん?」とは思いましたが、文鳥ちゃんも動物ながら鏡の国のアリス症候群なのかと勘違いしてしまうミスリードに完全に引っかかりました。
瀬木が、正体を明かすシーンはかなり面白かったです。
そして解説役の「宇藤 耕太郎」。
マンガ編集者。冷静ながらどこかぶっ飛んでおり、世界鬼の出現にビビるより先にスケッチ始めちゃう変人。
とはいえ彼のように理解不能のファンタジーを冷静に分析する役はこういった作品には必要不可欠ですが彼がいることによって物語が非常にわかりやすくなっていました。
そして、まさかの展開によって変貌を遂げるところもよかったです。
最後に「大倉 快人」。
彼は元陸上自衛隊の自衛官で、なんとシャブ中でゲイで投獄中というキャラ立ちまくりの存在です。
見た目は怖く、かなりイッちゃったキャラですが基本的に善人であり、シャブ中になったのも理由があるようです。
かなりの戦闘能力で空想具現化する際に装甲車や戦車を出してしまうほど。
彼が脱走する回は最高でした。
かなりイッちゃってますがかなり面白い、とても特殊なキャラクターでこの人ともう一人SEX中毒のアリスのせいでアニメ化は不可能であることは言うまでもありません。
総評:絵に違和感を感じてもどうか読み進めていってほしい良作
誰にでもおすすめできるかは正直わかりませんが、マンガ好きならぜひ一度は読んで欲しい作品です。
展開が早いため飽きることなく一気に読めると思いますが、絵だけで好き嫌いしないでほしい。
蛇足
作者さんが「○○」と言われていますが、とても面白い人です。
ポケモン騒動はあまりやったことがないのでよくわかりませんでしたが…。
ポケモンの好き嫌いで選ばずに強キャラを使えって言ったら、好き嫌いで選んでる人に負けちゃった…みたいな?
面白い人です。