「めしばな刑事タチバナ」 坂戸佐兵衛・旅井とり

”―――立花さんは、ファミレスに”家族を求めるんですね。”

ネタバレ有りです。

世界中に数あるマンガジャンルの中でも、読んだ人の心でなく”胃袋”をガッチリとキャッチするマンガといえば「グルメ漫画」ですね。

「グルメ漫画」の多くは”幻の食材”や”摩訶不思議な調理法” ”料理人対決”などの言葉がしっくり来るジャンルですが、ハッキリ言ってその手の漫画は食傷気味でもあります。

某漫画が行っている「グルメ漫画」の拡大解釈的政治的利用での原発ネガキャンなどを見ていると「あれ、グルメ漫画ってもっとあっさり読めるもんじゃないの」と思ってしまいます。

とはいえ私自身グルメ漫画好きですので『クッキングパパ』はもちろん読みましたし、『ミスター味っ子』も読んでますしもちろん最近問題になったあの定番マンガも子供の頃から読んでます。

最近ですと『くーねるまるた』日本とポルトガルの食文化の違いから生まれるステキな貧乏料理を実際に作ってみたり、『きのう何食べた?』では節約家庭料理を作ってみたりしていますし、『おせん』は塩麹をいち早く知れたり。

異色作だとやはりビッグ錠先生の『包丁人味平』、グルメというより狩猟マンガの『山賊ダイアリー』などを読んでいます。(ちなみに20代前半ですので当然ですが古い漫画はリアルタイムではありません)

そんな中で週刊アサヒ連載の『めしばな刑事タチバナ』は”まったく料理を作らない”かなり異色のジャンルです。

”めしばな”を語るだけ…凄腕料理人も幻の食材も「いらない」グルメ漫画

このマンガについて語るにはまず主人公について語らねばなりません。

主人公は警視庁城西署の刑事「立花」。

彼こそはまさに「キング・オブ・チープグルメ」といった存在です。

立花はありとあらゆるB級・C級グルメを食べつくし、その知識量は凄まじくファミレスや牛丼チェーンは勿論カップ麺や駅前の立ち食いそば店、弁当屋、ポテトチップスなどなどその造詣は広く深遠…。

彼にひとたび”めしばな”を語らせれば日本中のグルメについて何でも長々と聞かされることになるのです。

このマンガの面白いのはいままでのグルメ漫画にありがちな”幻の食材”も”凄腕料理人”もいらないという点あり、読者は読後すぐ題材として扱われた食べ物を食べることが出来るのです。

いっくらマンガで「うわー!こんな卵がキラキラ光る親子丼が作れるなんて!!!」みたいな事言われても、こっちは美味しいかどうかわかんないですからね。

このマンガの基本的な構成は「立花がただただ題材となったグルメの歴史やメニューについて語る」だけですが、これが面白い。

普段身近にあるチェーン店やお菓子が題材ですから「お、これ昨日食べたばっかり!」「え、あのチェーン店ってあの系列だったの?」など話に置いてきぼりにされることもありません。

地方限定のチェーン店の話もちゃんと抑えてますし、関東圏以外の人でも十分楽しめます。

しかもただただうんちくを語るだけじゃなくもう今や誰もしらないような開店直後の話や今はないお店やメニューなども語られており中年以上の方にもオススメです。

料理をしない、凄腕料理人も出てこない、幻の食材も奇抜な調理法もない…でも面白い!

批評系グルメ漫画の転落と新時代”実食可能”グルメ漫画の台頭

私は基本的に「作品に対してポジティブに捉える」のを基本理念として書いていますが、近年の”批評系”と呼ばれるあるグルメ漫画には大きな疑念を抱かざるを得ません。

これはあくまで私の主観なのですがグルメ漫画はあくまで食を題材としているので「歴史問題や食品を裏付けなしに批判してはいけない」と思っています。

”食”というものが地域の違い、味覚の違い、年齢の違いでかなり左右されるので長く書き続けてしまうと矛盾が生じたり意見が偏るということはありますが、だからといって裏付けなしに批判をするのはダメです。

私自身も某長期連載のグルメ漫画を好んで読んでいましたが内容を無条件に信じさせようとする著者の書き方に騙されていたこともあります。

食文化というものはただでさえ人によってかなり違うにもかかわらずあまりにも一方的に議論の余地を残さず断言することは危険だと思うのです。

そしてグルメ漫画なのか社会風刺漫画なのかはっきりしないマンガを描くことが「食を人質にした著者の持論の強制的刷り込み」のように感じます。

ただでさえ主観的にしか表現できない、味を表現しきれないマンガで社会問題を著者が独自解釈したものまで表現しようとするのは難しいはずです。

にも関わらず主人公たちに「これは美味しい」と言わせることで読者が「あー、これはそんなに美味しいんだ」と思わせているわけですが、これはマンガの表現方法ですし食に関してはしょうがないと思います。

しかしそれに合わせて主人公に「化学調味料は危険」とか言わせるのはおかしいと思うんですよね。

これって読者に無条件で「あー、化学調味料は危険なのか」と思わせるわけですから、こういったことには裏付けが必ず必要ですよね?

挙句の果てに食と関係のない隣国との歴史問題まで出てきて「俺はこんなのが読みたいんじゃねーんだよ!」って気持ちになってしまいます。

私なんか未成年の時に読んでいたので「水道水は飲むと危ない」とか「化学調味料は自然界にないから危険」なんて馬鹿らしい刷り込みをされたものです。

(ちなみに水道水はとても安全で飲んでも健康被害はまず起きませんし、化学調味料は実は科学でも何でもない昆布にも入っているグルタミン酸なのでWHOが安全だと宣言しています。)

グルメ漫画は読者側が「これは実話なんだろう」と当然のように考えていますからね。

挙句の果てに

「自然食品が――」

「化学調味料は――」

「無農薬栽培は――」

「鼻血が――」

「肉でガンが治る――」

「サラダにドレッシングはかけないほうがおいしい――」

「ドレッシングをかけるとサラダの味がわかる――」(!)

(全部同じマンガ)

みたいなのは完全に著者のさじ加減ですからね。

しかも読者は”それ”を食べることは出来ないので「それはまずいだろ」とも言えないわけです。

その点で『めしばな刑事タチバナ』はファストフードやだれでも買える商品ばかりを題材にしているので漫画の内容を見て実際に買ったり食べたり出来るわけです。

外食産業や食品販売会社へ消費者が消費行動をするわけですから社会貢献度もあるわけで、どこぞのマンガのようにあたり構わず裏付けもなしに喧嘩売りまくることもない。

某漫画の内容なんてほぼ噂、都市伝説レベルの話をさも本当の話のように書いているので、我々読者はあのようなタイプのマンガが実話なんかではなく「食を扱ったファンタジーでありフィクション」だと思うべきなんでしょうね。

批評系グルメマンガの凋落が新時代の実食系グルメ漫画の台頭を許したのはインターネットの発達によって「フィクションだとバレた」…もっと厳しく言えば「裏付けの杜撰さ」が露呈したことが大きいでしょう。

これからは読者が「著者のエゴで存在しない絵に描いた餅を誇張したマンガ」よりも身近な食材や家でも十分に作れる料理やファストフードやカフェなどを題材とした「実食可能型マンガ」こそが時代の流れにあっているといえるでしょう。

推し牛丼屋…推しポテチ…推しカップ焼きそば…だれもが持つこだわりを描く

例えばあなたの好きな牛丼チェーンは?

定番の吉野家、甘辛いすき焼き風味付けのすき家、カレーなどのサイドメニューと肉質が自慢の松屋…。

どこが”推し牛丼屋”なのかで本気で話し合うマンガなんて面白すぎます。

ちなみに私は「すき家」推しだったんですが3~4年前から「松屋」推しに変わりました。

好きなインスタントラーメンは?

もちろんサッポロ一番みそ味ですが、塩味も捨てがたい…。

カップ焼きそばならやはり「ペヤング」ですが、なんとマンガで「ペヤングは関東だけ」なんて書いてあって驚きましたね。

こんな日々さり気なく食べているものにフォーカスした内容は共感も得られるし、友人との会話で使える面白いうんちくなんかもあり有用ですね。

登場人物も主人公以外が色々な推しグルメがあり面白いです。

特に韮沢課長と署長が立花とメシバナで張り合うのも面白いですね。

総評:だれでもが共感できる、手放しでおすすめできる一冊

カップ焼きそばを食べたことない人はいないはず、牛丼を食べたことない人はいないはず…。

誰でも共感できて、身近なチェーン店の歴史を知ることが出来るのは面白いです。

食を扱うマンガとしては「くーねるまるた」「山賊ダイアリー」「めしばな刑事タチバナ」あたりが最近私が友人におすすめしているTOP3的な存在となっています。

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