「ダブルアーツ」 古味直志

絶対その手は離さない!!

ダブルアーツ 1 (ジャンプコミックス)

「ダブルアーツ」全3巻読み終わりました。
この作品が少年ジャンプで連載されていたというのはかなり驚きです。
ガンガンなどで連載していれば最後まで読めたんじゃないかな・・・。

ストーリー

未知の死に至る奇病「トロイ」が蔓延し、「トロイ」に対して抗体を持つシスターと呼ばれる人々だけがその病気が治療できるという設定。
シスターはトロイ患者を治療できるが、あくまで患者の体内の病原体を自身へと吸収するだけ。
トロイは接触感染のみではあるが人に感染させる性質があるためシスターは素肌で人とは触れ合えず人々を救っているのに世間では人々に避けられてしまう。
何度も治療を行ううちに抗体を持つシスターでも耐えられない量の病原体を保有してしまい最期は死に至るという世界が舞台。

シスターである少女、エルーはトロイの治療を行っていたがターム(街)で治療を行った際についに限界を迎えて発作が起きてしまう。
ひとり路地裏で倒れるエルーの手をとったのがもう一人の主人公キリだった。
彼はトロイ患者に触れても感染しない特別な体質を持っており、さらにエルーの死の発作すらキリに触れている間は一時的にだが止めてしまう。
命を一時的に救われたエルーはキリの特別な能力がトロイから世界を救う可能性を感じ、最期の仕事としてシスターの本部である教会へと連絡をとる。
手を離せばエルーは死んでしまうためエルーはキリを見つけたことを「シスターとしてこれ以上うれしいことはない」と言い死を覚悟します。
そこで教会はエルーとキリに「ずっと手を繋いだままで教会本部まで旅をする」という解決策を提案し、彼と彼女の世界を救うための旅が始まる。

打ち切り

残念なことにこの作品は3巻で打ち切りとなってしまいました。
冒頭にも書きましたがガンガンなどのファンタジー色の強い雑誌で連載していればきっと最後まで読めたのではないかと・・・。
あにZねす様でも考察されていましたがやはり少年ジャンプでファンタジー、いわゆるヨーロッパっぽい世界観というのはかなり難しいのではないかなと思いました。
ワンピースもファンタジーっちゃファンタジーですが設定の下地は「ゴム人間」が「海賊になる」という程度でした。
ダブルアーツは「死の奇病が蔓延した世界」で「少女はその病気に限定的な抗体を持つシスターと呼ばれる職業」「少女は奇病を吸い取ることで人々を救うがついに限界になり死にかけて」「少年は特異体質で死の奇病を触れ合ってる時だけ沈静化させることができて」・・・。
やっぱりどうしても設定が複雑にはなっちゃうと思うんですよね。
これを”悪い”というつもりはなくて、実際この設定はマンガを読む上で結構すんなり入ってくるんですよ。
ぶっちゃけ1話のワクワク感は紛れも無く少年漫画のソレなんですよね。
これは絶対面白くなる!っていう。

設定不足・・・?

これは週刊連載というスパンで雑誌を作らなければならないならしょうがないとは思うのですが、もうちょっと設定をしっかり練りあげてから連載できる環境が必要だったのではないでしょうか。
1話はとてつもなく面白かったのですが敵として現れたシスターを皆殺しにしたい集団「ガゼル」の暗殺者が「剣」的な武器で攻撃してきます。
シスターはあの未知の病トロイの病原体を大量に保有している「歩く生物兵器」なわけですから、接触感染がアウトなら基本的に体液での感染も十分考えられます。
そんな接近戦最強とも言えるシスターにインファイトを挑み、剣でぶった切ろうとします。
返り血が大丈夫でも例えば微細な皮膚、髪の毛でも感染するという設定もありますのでそれらが飛んで来る可能性は・・・。
相打ち覚悟でタックルでもされたら対処不可能ですからね。
まあガゼルのメンバーはもしかしたら抗体持ちなのかも・・・1話でエルーの平手打ちをフツーに喰らってますし。
と思ったら1話の暗殺者はお金で雇われた人でした・・・。

髪の毛でも感染するならもはやシスターは剃ったほうが安全じゃないの?とか色々とあると思うのですが否定するつもりはありません。
どういう経緯かはわからないのですが準備時間が限られていたのではないかなと感じました。
編集者との打ち合わせで構想の段階でこの程度の矛盾は恐らく修正されているはずではないかな・・・。

例えばシスターは手のみが「触れられない」という設定であれば手袋である程度カバーできたはず。(とはいえ人と触れ合う温もりに感動する描写ができなくなってしまうかも)
いろいろときっと解決策があったと思うのです。
なので週刊連載より月間連載でたっぷり時間をかけて連載スタートすべきだったのではないかなと感じたのでした。
そうしたら鋼の錬金術師並に面白い漫画になってたかも!?なーんて思っちゃうのです。

魅力的なキャラクターと設定

まずこのマンガはキャラクターが抜群にいいです。
絵がとてもうまくてキャラがしっかり描き分けられていて完璧に見分けがつきます。
主人公であるエルーとキリはもちろん、スイはしなやかで戦闘シーンに映えるし、老若男女しっかり描けていてとにかく読みやすかったです。
カットの所々でいろいろなマンガを上手く参考にしている部分があってそれもすごいことだと思いました。

設定も未知の病から世界を救うべく旅をする手を離すことのできない少年と少女というこれだけで十分マンガ全巻買いたくなるような良設定です。
王道的ファンタジー世界観でこの設定なのですからもうたまりません。

個人的に打ち切りが残念すぎる作品

ただただこれに尽きます。
何度も言いますが週刊連載じゃなくて月刊連載ならどうなったか・・・ぜひ平行世界を旅したくなる理由のひとつです。
テンポは確かに悪いです。
もしもうちょっと早く「ダブルアーツ」を完成させていたら・・・。
2巻冒頭の教会を訪れる回、ハイネのストーリーを入れるタイミング・・・。
もうちょっと準備時間があれば上手く行ってたと思うんですよね。
ダンスで習得するっていうアイデアも良かったのに・・・。

あ、ちなみに1巻の巻末に読み切りが載っているのですがこれが進撃の巨人みたいな設定でめっちゃ面白いです。
もちろん進撃の巨人より先に描かれたものですし、デカイ壁に囲まれているってだけなのですが。

古味先生は「ニセコイ」という人気マンガを現在連載されているのですがまだ読んでいません。
今度は学園ラブコメディ―なんですね。

もしもニセコイが一段落したら次こそファンタジーを描いてほしいなと思います。