人の生活の影に潜んで暮らす人々を描くダークな借りぐらしマンガ『ヒル』

死なないんなら 生きていかないといけないんだ ちゃんと!

ヒル 1巻 (バンチコミックス)

ヒル…それは人々の生活の影で暮らすもう一人の住人…

こんばんは、ALVAです。
生活の影って必ず存在しますよね。
どんなに「自分の家」だと思っていても働いている平日の日中に自分の部屋がいったいどんな状態になっているかなんて知ることはできません。
そんな生活の影を狙って暮らしているのが「ヒル」。
人にとりつき影響がない程度に血を吸わせてもらうという生態が似ているのでしょうか。
彼らは住人の生活リズムを把握し、こっそりと合鍵を作って生活しているのです。
主人公のハコはひょんなことから”死んで”しまい、ヒルとして生きています。

絵のテイストは久保帯人先生と青山景先生を彷彿とさせる

この本を読もうと思ったきっかけは友人宅で表紙を見たとき。
本当に微かにだけど青山景先生のストロボライトの表紙がフラッシュバックしたのです。
キャラクターがこちらを向いていて、無言なのですが温度が伝わってくるような感じ。
絵が似ているというのとは違うのですが・・・。

逆に久保帯人先生の絵のようにシンプルでマンガにとっての強調表現である黒(ベタ)だけじゃなくて白を大事にしている画風は巻をすすめるうちに化物のように進化していきます。
5巻なんかその空白の空間表現がもうすごい空気感で、人と人の間にある空気感を的確に表現されていると思います。

ストーリーはどこにでも転がっている身近な話

ときどき逃げ出したいほど嫌な状況に陥るときってありますよね。
必死に逃げるか踏みとどまるかをグルグル考え続けるときです。
その時、きっと私はとても必死なんです。
でもその状況が終わると、急にその時の自分の必死さが不思議になることってありますよね。
「なんであのときあんなに悩んでたんだろう。一歩踏み出すだけだったのに。」
だからといって当時の自分が手を抜いていたわけじゃないんです。
本気で必死だったはずなんです。

このお話はそんなお話。

極論ですがどんなに嫌な人がいて、その人が怖くても、車で轢けば死にます。
仕事をやめても、命まで失ったりはしません。
だからといって悩んでる状況に変化はありません。

主人公のハコはがヒルとして生きることになったのは父親が嫌だったから。
怖くて、嫌いで、家の中でどれほど強大な存在に見えても、実は外から見れば家という箱に収まる小さな男。
そういうことって結構あると思うんですよね。

ハコの悩んでることってもしかしたら後々「なんでこんなことで悩んでたんだろう」ってことになるかもしれませんが、当事者からしてみればすっごいリアルで重要な悩みなんですよね。
だから、ハコはヒルとして生きる時間が重要だったんだろうなって思いました。

ヒルという生き方

作中に登場する刑事ではないですが、私自身もこんな生活をする人々に憧れがないわけではありません。(やるのはぜったいやだけど)
他人の最もプライベートな空間に侵入して、気づかれない程度に満喫して迷惑をかけずにそっと出ていく。
そういう現代的でアウトローな生き方って面白いです。

ちなみに好きなキャラクターはハコとマコト。
最終話のラストのハコの視線の先に、マコトがいる事を願います。

でもこのマンガって嫌いなキャラクターがあんまりいないんですよね。
3話のおっさんは嫌いだけど、憎みきれないし・・・。
テトリスも強い孤独からカラとしてのマコトに依存してたからあんなことになっちゃったんだし。
まあ最後の3人組はちょっと嫌いだけど、ストーリー上あーいう存在は重要だし。

久々にちょっぴりダークなマンガだったので面白かったです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加