『Cloudpunk』レトロ×サイバーが融合した美しい世界で自分の運命を運ぶ

『Cloudpunk』はION LANDSが開発・販売しているサイバーパンク都市でグレーな運び屋稼業を体験できるアドベンチャーゲームです。
プレイヤーは大都市Nivalisで運送会社「Cloudpunk」の従業員として縦横無尽に走り回ることになります。

最初は『Cyberpunk 2077』までのつなぎのつもり

購入前はCD PROJEKT REDの最新作『Cyberpunk 2077』の発売が延期になり、どうしてもサイバーパンク要素を吸引しないと頭がおかしくなりそうでした。
そんなときに発売日前から少しだけ情報は耳にしていた『Cloudpunk』を見つけ、購入することに。
なので当初は『Cyberpunk 2077』発売までのつなぎのつもり。

しかしそんなぬるい考えはプレイしてみると一気に吹き飛んでしまいました。

とにかく美しい背徳の街Nivalis

本作については誰もが口を揃えて街の美しさに感動しているのではないでしょうか。
ゲーム購入前は「あーボクセルかぁ。ショボくてもしょうがないよね。」などと偉そうに思っていたのですが、とても良い意味で裏切られました。

このゲームのビジュアル面での評価は100点です。断言します。
確かにボクセルによって作られた街並みですが、それが逆に強力な舞台装置の一部となっているのです。

つまり人間がデータ化できる世界であれば、世界のほうがデータ化していてもおかしくないということ。
もちろんそんな設定ないのですが、サイバーパンクな街並みでどこか生気を感じない人々がさまよう風景はまさにデータ化されたかのようで、それがローポリゴンの街並みにとてもキレイにフィットしているように思えるのです。

ただしローポリローポリ言ってますがゲーム中はローポリゴン感はあまり感じません。
マインクラフトよりもかなり小さなブロックで構成されているような描写なので遠景では全く違和感がありません。

逆に近づくと細やかなブロックごとの色の違いなどに感動してしまいます。
この中国風?の家は窓と欄間と柵と椅子と机と照明が小さなドットで構成されていて、どこか懐かしい温かみのある雰囲気になっています。

ボクセルアートとハイクオリティの融合

『Cloudpunk』のビジュアル面での美しさの理由はすべてをボクセルで表現したわけじゃないところも重要なのではないでしょうか。

たとえば↑の画像の左上の「UMIBOZU RESORT」のホログラフィック看板。
これはブロックではなく絵で表現されています。

これもそうです。
クラブのネオン看板は周りと違いブロックではありません。

つまりブロックで表現しつつ、必要な部分ではハイクオリティの素材を使用しているということです。
これがリアリティを生み出しているのは間違いありません。
すべてブロックで表現することもできたでしょうがそこには拘らず、適材適所で配置していくという考え方は造り手の”こだわりに縛られないこだわり”という感じ。

匂いすら錯覚するような生活感

ついつい1階のカラオケなどに目が行きがちな画像ですが、3階あたりの雰囲気をぜひ見てください。
匂い立つような生活感を感じませんか?
1階がカラオケ屋さんだからあそこに住んでる人は騒音に困ってそうだなーとか、3つある部屋の左の人はもう寝ちゃったのかな?とか妄想しちゃいませんか!?
室外機なんかもあってドット絵の作品としても十分な出来ですよね。

この明かり一つ一つにストーリーがありそうな雰囲気がたまらないです。
よく見るとビルの明かりには人影のようなものが写っているんです。
きっと遅くまで働かされてる人なんだろうなぁ……。
それともHOVAで走り回る貧乏人を見下ろしているのか……。

HOVAの操作はアドベンチャーの合間以上の意味を持つ

このゲームは基本的にアドベンチャーゲームとして進行します。
HOVAと呼ばれる浮遊車両を操ることはありますが、その操作スキルがゲームの結果に反映されることはほぼありません。
つまり”移動するだけ”なのです。

しかしこの”移動するだけ”という単純な行為がこのゲームにおいて非常に大きな役割を持ちます。
駆動音の静かなHOVAで未来都市のビルの合間をくぐり抜けるのは、まるで夜明け前にひとりで車に乗って走っているときのような静かな高揚感を感じるのです。
移動中もやることがないわけではありません。
果たして私は何を運ばされているのか、どこに運ぶべきなのか、お金を取るべきか良心に従うべきか……。
物言わぬ静かな街は綺羅びやかにただただ私を見下ろすだけ。

軽快ながら無常感も味わえる住人たちとの会話

Nivalisに住む人々は様々な思惑で動いています。
不思議な人もいれば、ただただ欲深い人も。
彼らはただただ自分の信念に従って生きています。

こんな街ですから、殆どの場合ハッピーエンドにはなりません。
もちろんプレイヤーが手を貸してあげることはできますが、それでも世間一般的なハッピーエンドとは違うものになります。
それでも彼らは清濁併せ呑んで生き続けなくてはならないのです。
……生きないという手もありますが。

総評:サイバーパンクの新たな地平を切り拓いた傑作

サイバーパンクの世界観は冷たく無情だ。
美しいネオンや立ち並ぶ摩天楼の足元では人間の深い欲望が渦巻き、弱者は虐げられ人々はデータの奴隷となる。
そんな美しくも悲しい世界観をローポリゴンで美しく描いた本作は間違いなくサイバーパンク史に残る傑作だ。

主人公と犬(HOVA)とのかけあいはぜひ本編で味わっていただきたい。
冗長に感じるかもしれないが、音楽を諦めた少女と体を失った相棒の暖かくもどこか哀しい軽妙な会話はあまりにも尊い。

サイバーパンクというものが「ハイテク」というイメージがある。
であれば現状できる最高のレベルで描画すべきだろう。
しかしまさか粗いボクセルで表現するという技法がこれほどまでにサイバーパンクにマッチするとは思わなかった。
人格ですらデータ化できる世界であれば、世界そのものがデータのように見えるということなのかもしれない。

この成功はゲーム制作において大きな影響になる可能性がある。
比較的スペックを要求しないボクセル系のゲームで同じようなコンセプトのゲームが登場するかもしれない。
サイバーパンク成分を常時吸引しないと死んでしまう筆者にとっては期待せざるを得ない。

良いところばかりを書いてしまったので数少ない気になった点も書いておこう。
一番残念だった一人称視点の未実装に関してはアップデートで改善されたため、今は小さな問題しかないがやはり冒険要素の無さだろうか。
多数のエリアが存在するにも関わらずパンチカードぐらいしか集めるものがない。
もっとエリアの成り立ちや、物語の舞台設定などについて触れることができるような探索要素がほしかった気もする。

とはいえシンプルに纏まっているためこのゲームはこれでいいと思う。
あまりにも多すぎる要素はゲームの流れを乱すし、このゲームにおいて重要なのはアドベンチャーパートなのだから。

評価とは関係ないが『Cloudpunk』の発売日には驚かされた。
延期などがあったとはいえ『Cyberpunk 2077』の当初の発売日にかなり近いのだ。
1月の時点で延期が発表されていたためかぶる心配はなかったのだろうが、筆者のようにサイバーパンク要素に飢えた人々を見事に掴んだように感じる。
『Cyberpunk 2077』が莫大な予算と高度なテクノロジーで豪奢に作られている反面、『Cloudpunk』はまた違った形でサイバーパンクに挑んだ成功作だ。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加