CONTROLはSCPとは似て非なるゾンビシューター

FEDERAL BUREAU OF CONTROLを「連邦操作局」と訳したのは神

CONTROL

『CONTROL』はRemedy Entertainment Oyjが開発したアクションアドベンチャーゲームだ。
現実から乖離した超常的な現象を封じ込めることを任務としてきた米国政府の機密機関であるFBCこと「連邦操作局」を舞台に主人公ジェシーは超常的な能力を用いて敵を倒すTPSゲーム。

SCPリスペクトは感じるが、ゲームへの落とし込みの成否は疑問

確かに『CONTOROL』はSCPをオマージュした作品だ。
作品の端々に出てくる超常的なオブジェクトにはSCP作品へのリスペクトを感じられる。
しかしそれを活かせたかと言われると「うーん…」となる気持ちもわかる。

というのも本作ではどのような興味深いオブジェクトが登場しても全て「銃で解決する」という超絶脳筋スタイルなのだ。
オブジェクトの特性を利用して封じ込めたり、オブジェクト同士を影響させ合うことで無力化したりといったテクニカルな方法から、なぜそんな方法で?と思うような面白おかしい収容手順なども存在しない。
(作中に誰かがずっと見てなくてはいけないオブジェクトが一瞬登場するが、戦闘などには活かされていない)

超常的な手段を用いてねじ伏せるというSCPでも賛否が分かれそうな手順ですら無い。
もう一度言おう。本作は「銃をぶっぱなす」という方法でのみトラブルが解決される。
つまり知的娯楽であるSCPという本家に対して亜流である『CONTOROL』が提示した解決法は「すげー便利な銃ですべてをぶっ飛ばす」だけだった。

敵に関しても疑問がある。
SCPのような不可思議な現象に対峙するのかと思いきや、戦闘の99.5%は超常現象に操られたゾンビを銃で撃つだけだ。(残りの0.5%はゾンビじゃないだけで銃で撃つことに変わりはない)
せっかく超常現象という題材があるのに、やっていることはただのゾンビゲームというのは少々残念だ。

敵の雰囲気もSCPの持つ静的な恐怖と違い、非常にアグレッシブで動的な存在だ。
演出も同様でホラーというよりはサイコっぽい感じなのであまり怖くない。

例えば何らかの認識災害やキネト災害で攻撃してくる、影のみで実体が見えないなどもう少しトリッキーな敵がいても良かったと思う。
姿を消して接近する敵などはいるが、正直めんどくさいだけで戦っていて楽しい存在ではなかった。

と言いつつも戦闘は楽しかった

上の章で文句を言ってしまったが、あれはSCP的なものと戦うのであればという意味だ。
単純に戦闘だけを見れば敵のバリエーションが乏しいことを除けばかなり良くできたTPS+サイコキネシスバトルだ。
石を巻き上げて作り出すシールド、周囲の物体を引き寄せて撃ち出すなど爽快感と戦略性、そして豊富な選択肢の戦闘は飽きることなくエンディングまで続けることができた。

進行するごとに解除されていく様々な武器スタイル・サイコキネシスにはワクワクさせられたし、特別に用意されたステージでは信号機が青のときしか移動できない”だるまさんが転んだ”のようなギミックなどプレイヤーを飽きさせない演出があった。

だが先程も述べたとおりそれ以外の通常戦闘(移動中に遭遇する雑魚退治)は早い段階でマンネリを迎えている。
敵の種類はそれほど多くなく、ゲームが進むと「ただ固くなる」のだ。
攻撃力も上がるが弾速などは上がらないので回避での対策が最後まで通用してしまう。
ただ硬いだけの最初と何も変わらない敵と撃ち合うのは単純に時間の無駄に感じてしまう。

本作の戦闘は楽しいが、ゾンビはもっとバリエーションを増やしてほしかった。
視覚的な進化もなく、ただ頭上の数字が大きいとレベルが高く硬いというだけなのはもったいなく感じた。

細かい話にはなるが戦闘中に敵の飛ばしたグレネードを優先してサイコキネシスできるのは素晴らしいと感じた。
こういう細かい気遣いには最大限の感謝を贈りたい。
わざわざエイムしなくてもグレネードを敵に撃ち返したいという意図がゲーム内のキャラクターとプレイヤーで一致しているだろう。
こういった派手ではないが重要なプレイアビリティの向上はとても重要なことだ。

演出は最高

様々な場面で挿入されるフラッシュバックのような表現、美しく無機質でブルータルなコンクリート造の建物。
舞い上がる机や電気スタンド、散乱する郵便物、白と赤と黒のコントラスト……。

本作は隅々まであまりにも美しい。
SCPなどの超常的な存在が持つ静謐な雰囲気と狂気とを上手く兼ね備えている。

本作の舞台はオールデスト・ハウスというビルで(多分SCP-470を参考にしている)、内部に最新の機器を持ち込むと爆発したり消失したりするため基本的にタイプライターや8mmフィルムのような古いテクノロジーを使用している。(うろ覚えだが)

そのため様々な場所で美しく広い空間に大量の書類、ブラウン管モニター、郵便物用エアシューターなどと出会うことができ、ノスタルジックな雰囲気に浸れる。

演出の素晴らしさはゲームの舞台だけではない。
新しいエリアに到達すると表示される文字演出なども気持ちがいいし、戦闘時などのエフェクトも素晴らしい。

本作のベスト演出は灰皿の迷路だ。

アール・デコ調の廊下はあまりにも美しく、絶えず組み替えられ、上下左右前後の感覚を失わせるような演出には大興奮だった。
ゲームというよりも体感可能な芸術作品のようだ。
残念だったのは出てくる敵がそれまでと同じだったことぐらいだろうか。

戦闘はワンパ、それでも悪くはない

本作の基本的な攻撃方法は2つ存在する。

ひとつが超常的なオブジェクトである「サービスウェポン」という銃を使用した攻撃。
この武器は5種類のモードに切り替えることができ、戦闘中は2つのモードを装備して戦うことになる。

・通常

豆鉄砲、連射も効くが…
・粉砕
ショットガンモード。射程は短いが物陰に隠れてコレでほとんどの敵は倒せるぐらい強い。
・貫通
ショットガンモードの火力で、超遠距離射程で貫通する。チャージ必要だがどうせ隠れて撃つから困らない。コレ一択。
・連射
豆鉄砲をたくさん撃てる。通常と同じくあんまり使いどころがない。敵のシールドが頻繁に回復するせいで連射系は使い勝手が悪い。
・爆破
敵が透明になったり、突然現れたり、TPSで見づらくて遮蔽物の判定があったりすると自爆する。貫通でいい。

この5種を使うのだが、書いてあるとおりほぼ貫通でなんとかなる。
貫通で殺しきれない敵は後述の投擲で倒せばいいし、洗脳してもいい。
逆に貫通以外が微妙すぎる。粉砕は若干マシなぐらいだろうか。

もう一つの攻撃手段が「超能力」だ。
本作のオリジナリティ溢れる部分で、『Portal』や『Half-Life』で似たようなのを見たなどと言ってはいけない。
超能力にもいくつか種類があるが、サービスウェポンと違い習得すれば全種類装備できる。

・投擲
近くの物体を引き寄せて撃ち出す能力。なんなら投げるものがなくてもどこかから瓦礫を生み出す。マンガ『ARMS』のわかる人ならジャバウォックの圧縮空気砲と思えばわかりやすい。すべての敵を倒せる最強の攻撃。どこまでも飛んでいき、敵を押しつぶす。
・シールド
近くの瓦礫を自分の前に固めて盾にする。これがないと倒すのがダルい敵がいる。
・回避
超速ダッシュ。『BLEACH』でいう瞬歩、飛廉脚、ソニード…いっぱいある。距離は短いが、回避にも使えるしジャンプ中に使えば空中ダッシュになる。
・洗脳
HPの減った敵を自分の味方にする能力。トドメ的に使うこともできるが洗脳には若干時間がかかり、その間は無防備なため倒しちゃったほうが楽。
・空中浮遊
空に浮かぶ能力。ふわ~っと飛んでいき、ある程度上昇したら滑空し始める。回避と合わせると空中で移動できる。

正直に言えばそれほど超能力バトルという感じでもない。
洗脳して操るというのもいくつかのゲームにあった能力で、回避や空中浮遊も同様だ。
結局決着は銃でキメるというスタイルはせっかく多種多様な超常能力を持つオブジェクトがあるのにもったいない気はする。
能力同士の相乗効果のようなものも薄く、浮遊と回避で空中移動ができるという程度だ。

一方でこの5種の超能力を用いた戦闘はその多様さに比べて操作はシンプルにまとめられている。
操作に困ることはないし、指が足りない感じもない。
序盤は地に足のついた2次元戦闘が主だが、後半は浮遊を活かして3次元戦闘に移行するのも楽しい。

貫通+浮遊&回避、時々シールドというワンパターンな戦術(もっと言えば貫通だけでなんとでもなる)に陥りがちだが、それでも敵を倒す快感はそれなりにある。

ただやはりSCP的な超常戦闘が多いのかと思いきや、延々とゾンビモドキを倒し続けるのはもったいない気がした。

まとめ:大衆向けSCPはゾンビを撃ち殺す

本作をジャンルで表現するならば「超常現象ゾンビシューティング」と言ったところだろうか。
雰囲気こそSCPな感じだが、序盤から説明されていない要素が多すぎてストーリーは置いてけぼり、侵入から10分ほどで何故か局長になる主人公、目的不明のゾンビ殺しなどなどたっくさんの意味不明と共に歩む作品だ。
必死にその意味不明を解き明かしたところで「ほーん。」という感じであまり興味がそそられるようなストーリーではなかった。

戦闘やアクション面は大いに評価したい。
複数のサイコキネシスと形態を変える銃という組み合わせは戦闘を奥深く楽しいものにした。
惜しむらくは銃の形態にもう少しメリット・デメリットを調整すべきだったというぐらいだ。

デザイン面も素晴らしい。
ブルータリズムと古めかしい調度品に彩られたフィールドは同じような舞台のゲームにも現時点では勝っている。
タイポグラフィーによって表現される新しいエリアの表示もワクワクさせるものだった。
戦闘時に飛び散る破片の一つ一つに至るまで美しさが宿っている。

動力源を用いたパズル要素はイマイチだった。
『Portal』ほどは望まないが、もう少し面白いSCP的な要素を盛り込めたのではないだろうか。
テキトーに配置された黄色い四角を、テキトーにハメ込むという微妙なパズル要素をユーザーは求めていないと思う。
ただしどこだったか忘れたが、ケーブルの配置とジェネレーターの位置、複数の動力扉のある場所は面倒だったが、やる意味はあった。

クリアまで楽しめたが、やはり”ゾンビを撃ち殺す”以外の広がりがあっても良いと思う。
すべてが銃で解決できるというのはかなり硬派なゲームだが、扱っている題材を考えるともう少しインテリジェンスが求められるようなゲーム性でも良かったはずだ。

SCPのような「独自の物語が作れるほどの豊富なゲーム世界とユニバース」という目標に対して結果的に「それを全部銃で解決してしまう」というアンサーをゲーム自体が体現してしまっているのは皮肉だ。

ちなみにDLCは手放しで評価できる内容ではなく、あくまで本編の延長線であり新たな要素はそれほど多くない。
同じような景色が同じような展開で同じように続く。
本編に飽きたらAWE編はやってもいいかもしれない。
敵の特性上かなり面倒だが『Alan Wake』が好きならぜひプレイしてほしい。

エンディングに関しては賛否両論のようだが、私自身はそれほど違和感はなかった。
スタートから説明不足で始まるので、説明不足で終わるだけだ。
ちなみに途中の収集要素であるファイルや音声などはかなり目を通しているが、一貫して分かりづらい。
ストーリーで表現できなかった部分を補完しきれず、エンディングは唐突に訪れる。
それでも満足感は高い。
SCPの”ような”世界で移動し、戦い、話すことができる。
それだけでも本作は十分に評価に値する。

個人的には大満足のゲームだった。

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