「おもいでエマノン」 梶尾真治×鶴田謙二

”失恋の痛みも癒え財布も底をついて帰路の最中だった。九州までの十七時間――僕の苦手な船旅の『行きずり共同体』も美しい女性が相手なら悪くはないと思ってしまったのだ。”

エマノンとは?――手の届く距離に現れたミステリアスな少女

「おもいでエマノン」は徳間書店 RYU COMICSから出たマンガであるが、原作の小説は梶尾 真治さんの代表作ともいうべき”エマノンシリーズ”です。

エマノンシリーズはロマンチックSFともいうべき純愛SF小説…とでも言いましょうか。

少女の神秘性を描く美しい時空を超えるストーリーです。

さて、本作「おもいでエマノン」は原作小説のコミカライズなのですが、非常によく出来た作品でした。

原作を損なうことなく、それでいて絵でストーリーを補完し登場人物の表情や小説で言う行間の間をも表現する画力は素晴らしいと思いました。

さて、ストーリーはSFといっても宇宙人や地底人が出てくるわけではありません。

日本SFらしい典型的な日常の中の非日常です。

ある青年が失恋の傷を癒やすためにあてもなくフラフラとさまよい財布が心細くなったところで帰りの船に乗った。

その船の大部屋でSF小説を読みふけっていると青年の前にミステリアスな少女が現れる。

少女と過ごすうちに彼女の語る内容がとても不思議で魅力的なことに気づいた青年は少女の物語に夢中になっていった。

その少女こそがSF界のベストヒロインである”エマノン”です。

まぁ今でこそ格好も古臭いですが、小説の連載中はそのナチュラルでミステリアスな美しさに惹かれたSF好きは多かったでしょう。

青年が名前を聞いた時、彼女は”エマノン”EMANON、NONAME(名無し)の逆読みだと彼女は言います。

彼女は自分の個人情報を話しませんし、青年の名前も聞きません。

要するに旅をする上で期待してしまう最高の一期一会な関係なんですよね。

結局彼と彼女は半日しか一緒にいませんでしたが青年にとってその出会いは生涯忘れない思い出となりました。

エマノンの魅力とは

一言で言えば「神秘性」です。

というか”少女”という存在自体が最早魅力なんでしょうね。

触れれば壊してしまいそう、話しかければ汚してしまいそう、眠ればそのまま消えてしまいそうな存在。

そして、彼女の持つ「数億年の生命の記憶」。

エマノンは永遠であり、正に神秘的な存在なのです。

さらに言えば時代ですね。

このマンガの時代設定は昭和後期ですので、インターネットなども普及してないわけです。

もし行きずりの少女と出会ってもSNSなどで探せませんし、携帯の番号も聞けません。

エマノンが自分の前からいなくなったら、二度と探せない。

そういう儚さがいいんでしょうね。

総評:SFだからと尻込みせずに、エマノンに会ってみてほしい

エマノンは別に3億年の記憶を何かに使うわけでもありませんし、異能力者のバトルやエイリアンの戦争に巻き込まれません。

”SF”というジャンルにはこういうものがあることも知ってほしい。

小説よりもイメージで入ってくるマンガから入るのをおすすめします。

特に高校生や大学生の時に読んでおくと、ミステリアスな少女と出会いたくてたまらなくなることまちがいなしですよ!

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