「GIANT KILLING」Vol.33 ツジトモ


”まあ監督というのは誰よりも早く次の試合へと頭を切り替えねばならん立場だからな”

イーストトーキョーユナイテッド VS 名古屋グランパス 後半戦

33巻は、序盤のETU10番のジーノのゴールで先制するも、その後名古屋の誇るブラジルトリオFWペペにハットトリックを達成され1-3という絶望的な状況の後半途中(後半30分前後)からスタートする。

9ページの夏木ゴール後のスコアボードの45分計では針が後半30分あたりを指しており、残り時間15分1点差という状況からETUがいかに戦うかというのが33巻の見所ですね。

また帯を見ると「逆境も呪縛もふり払い、光をつかめ!!」と書いてあります。

私も長らくチームスポーツをしていたのでわかるのですが、格下のチームは何となく「格下の気構え」ができており、そうそう連続でジャイアントキリングなんて起こらないものです。

恐らくそれは格上と言われるチームにも同じくさらに格上がいるわけですから、トップのチーム以外は皆こんな気構えを持っており、その中でも下から数えたほうが早いチームはそこの水に慣れてしまうように感じます。

格上に勝つのは難しいですが、試合前から「勝てればもうけもん!」とか「だめでもともと!」とか「格下は格下らしく!」何て言葉を漏らしてしまうようでは試合前から負けているようなもの…とも言えます。

とはいえ、自分の実力を知ってなお挑むというのも大事なわけで要するに「卑屈になるな」ということですかね。

今巻の帯はETUというチームが万年残留争いをしているせいで縛られてしまった「呪縛」から逃れる強い気持ちが伝わってきます。

ETUは夏木のゴールで2-3にまで追いつく

さて、今巻の最初のページはETUの誇る勝負強いFWである夏木のゴールから始まります。

コマに描かれてるのは部分部分ですが、恐らく今節がデビュー戦のGK湯沢からのロングフィードで前線にボールが出され、それを名古屋のCBがヘッドで押し返すもガブリエルがカット&ワンタッチで夏木に折り返しそれを左足で持ち上げ自らボレーを放ったというような流れでしょうか。

ゴールは夏木、ガブリエルがアシストというところでしょうか。

このシーン、夏木のアクロバティックなボレーと、ゴール後すぐにボールを拾いに行くところが印象的でしたね。

夏木は「まだだ…まだまだだ…、こんなものじゃ足りない…!足りなさすぎる…!俺が外してきた決定機の数々…、それさえモノにできていればチームはこんなに低迷することはなかったし…、みんなもここまで苦しむことはなかった。それでも俺を使ってくれる監督の期待に…パスをつないできてくれる仲間たちの思いに応えるために…俺はもっともっとゴールを決めねえとチームへの借りを返しきれねえ…!!」

これはまさにETU監督であった達海が求めるFWの資質を身に付け始めたということでしょう。

夏木は「自分が決めてれば」と考えている。それは自分がエースである自覚とも取れます。(単にFWの仕事ができていないという反省もあるでしょうが)

それを表すようにフリージャーナリストの藤澤は「監督の采配ミスを選手が救った?」といっています。

これまで神がかった奇策で敵を倒してきて、監督のおかげと言われても仕方がない状況のETUですが、達海だけは選手をリスペクトし選手の力で勝てることをチームで唯一信じていたわけです。

達海の采配だってあくまで”采配”であって神様ではありませんから、選手が自分たちの力で勝っている事を自覚し監督を助けるまでに至ったことはまさにETUというチームの大きな成長だということです。

あと2点、雨のスタジアムでETUのプリンスへ向けられた従者の怒声

「王子遅いっ!!」

常に何を考えているかわからず、気分屋で自由なETUの名実ともに王子であるジーノへ誰が物を申せるのか。

10番とは着る者によって程度は違えどそのチームの王者である。

キャプテンは宰相であり、王の良き理解者であらんと努め、残りの者は須く王に献身できる者でなくてはならない。

ETUの10番は王ではないが王子である。

王子に進言することが出来るものは限られ、王子は一人孤独の道を歩まねばならない。

しかし今巻で初めて彼に怒号を飛ばす家臣がいたのだ。

彼は椿 大介、ETUの7番にして王子の手先である。

さて、王子ことジーノは椿に対し「君は今、ボクに盾突くような態度を見せたかい?このチームの王子である…ボクに。」と冷たい視線とともに投げかけます。

その顔はいつもの陽気なジーノではなく、ひどく冷たい眼差しと怒りとも取れる憮然とした表情でした。

しかし椿は勇気を振り絞って答えます「お…王子はもっとできるって…俺は知ってます。俺は…監督のことも王子のことも信じてるから…。監督が王子をベンチに下げないなら…王子は問題ないってことだし…。」

「何より俺は…何度も応じの凄過ぎるパスを受けてきてるから…王子の実力はこんなもんじゃないってわかるんです」といいます。

そしてジーノはそれを遮るように「オッケーまあ合格かな」と言います。

王子は笑顔とともに「バッキー君をボクの飼い犬世話係へと昇進させてあげよう」

「凡庸な人間というのは才能ある者に対して尊敬と共に畏れの感情も抱くものさ。意見してくれる存在は有難い、ボクを独りにしないためにもしっかりと働いてくれよバッキー」

誰も王子に逆らわないのは王子が怖いからではなく「心から信じていない」からでもあります。

というより王子の世界を共有できる人がいないということでもあります。

同じビジョンで見れない人を信用するのは難しいものです。

王子は今回、椿とともに得点をとりに奇策を行いますが、同時に椿という得難い存在を得た試合でもありました。

椿→ジーノのシュートが弾かれ…

先ほどのやりとりから椿はジーノに早速「裏へ抜けてくれ」と頼みます。

敵もまさかジーノが上がってくるとは思わず王子はゴール左側でCBをかわしシュートします。

しかしこれが惜しくもGKの手にあたりこぼれ、そこへ詰めていた夏木がヘッドで同点弾を決めます。

そのままゴールネットに体を預ける夏木は、まさに「覚醒した」といった感じでした。

ゴール以外何も見えず、真っ白な世界に自分とボールとゴールだけあるかのようで、トッププロのサッカー選手の見ている世界をほんの少し垣間見れたような雰囲気でした。

そして試合は終盤へ、ガブリエルの”マリーシア”

ここから試合は完全にETUの流れになります。

途中、ペペの放った絶好のシュートも達海の采配通り湯沢が止めます。

とはいえ10人では逆転までいけそうにない。

ましてや右SBのガブリエルはもうバテており…。

と、思っていたら実はガブリエルはバテたふりをしていただけでした。

そして殿山からのガブリエルへパスが渡りそのままガブリエルがドリブルで切り込み最後はループシュートで逆転、ETUが勝利!

ガブリエルのバテたふりこそが「ブラジル人の持つマリーシア」だったのです。

ETUの確かな成長が描かれ、選手はひとりひとり正解の道を歩み始める

今巻はETUが達海に頼らず自分たちでの成長を描いていました。

次巻から大阪との試合ですが、果たして新生ETUは実力で勝利できるのでしょうか!

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