「頭文字D」 しげの秀一

――勝利の女神って奴がどこかにいるとしたら…そいつを感動させるだけの何かが今日のおまえにあったってことだろう

「頭文字D」は約5000万部も売れた説明不要の公道レースマンガです。
実は絵が好きじゃなくて食わず嫌いしていたのですが、年末を機に全巻読破しました。

ハチロクという足枷でヒーローを縛る

「頭文字D」では主人公 藤原拓海がAE86(通称ハチロク)に乗り、名だたる峠の名だたるクルマに乗る名だたる公道レーサーをぶちぬくお話です。
主人公はおよそ公道レーサーらしくない天然な性格で、最初は勝負事にすら乗り気じゃないネガティブ少年なのですが徐々に「戦い」に面白さを見出し公道レースにドップリと浸かっていきます。

ハチロクは車に詳しくない私から見てもあんまりかっこよくない、今風じゃない車です。
ヨーロッパっぽいというか、速いというよりはかわいい部類…?
作中でも「ハチロクかよ」みたいな感じで、旧式のポンコツ扱い。
そんなハンディキャップを背負いながらも、高性能のスポーツカーをちぎっては投げ、ちぎっては投げというのがこの作品の魅力ですね。

「ガンダム」で主人公が最初っからガンダムを乗りこなしても面白くないわけで、主人公がダメで乗ってるガンダムはスーパーカー。
「頭文字D」の場合は逆で、主人公はとんでもないドライビングテクニックの持ち主で、乗ってる車はポンコツというのがポイントです。
超すごいドライバーがF1並に速い車に乗ってポンコツばかりの峠で連戦連勝しても面白くないわけで、そういう意味では「頭文字D」はスタンダードな主人公像を描いています。
このように主人公が何らかの縛りがあるが、それをものともしないとんでもない能力を秘めてるタイプの場合、すんなり読めていいですね。
読者からしてみればライト級のボクサーがヘビー級と戦うようなもんですから、嫌でも不利な方を応援しちゃうってのが読者の心理にハマりますね。

とはいえ最後の方はハチロクもモンスターマシンと化していて、外側だけハチロクで中はスーパーカーって感じになってましたが、それでも今風のかっこいいスポーツカーに立ち向かうハチロクはカッコイイですよね。

前編と後編で描かれるストーリー

前編ではあくまで主人公がとんでもないドライバーだという描写。
後編では高橋兄弟と関東最速を目指すプロジェクトDのメンバーとして走る。

前編ではあれだけ勝負事を嫌い、走り屋に興味もなかった主人公が後編では最速を目指すわけだから、そのあたりの心理描写も注目したい。
その辺はやはり峠にかける走り屋たちの熱い思いが影響したのでしょうか。

ヒロインが二人ほど出てきて、最初の彼女がいつの間にかフェードアウトしてその後ほぼ出てこないのには心底ビックリしましたが、年下の可愛いゴルファーな彼女も可愛かったですね。

父親という大きな存在

主人公の父、文太もこの作品を語る上で外せないキャラクターですね!
超渋い豆腐屋のおじさんです。
儲かっているのか知らないですが、豆腐(厚揚げ)は美味しいらしい…。
主人公にとっていつまでも越えられない壁で在り続けるのは大人気ないようで、とっても素敵なことですね。
「手放しドリフト」とかイカれすぎててもう無敵キャラですねー。
主人公の拓海も結構父親が好きなようで、不器用ながらお互いを思いやる家族愛はなんだか憧れてしまいます。

ぶっちゃけマンガの最後は文太との秋名一騎打ちのスタートで終わってくれたら最高だったかなぁ。別にいらないかな。

迫力のレース

正直、車のことはよくわからないのです。
そんな私でも楽しめるわけで、このマンガは上手く出来ているなーと思いました。
前編では車の知識がない拓海にツッコミを入れる形でイツキと池谷が解説。ギャラリーも説明口調で教えてくれます。
後編でもギャラリーや高橋兄弟の手下であるケンタなどが解説してくれるので、何がなんだかわからなくても迫力は伝わってきます。
ただ最初の頃は「うえすとげーと?」「りとらくたぶる?」となってしまいました。Wikiって便利です。

私自身バイクはけっこう好きなので、車に関しては予備知識がほんの少しあったので助かりましたが、車に疎い女子が読むとちょっとわかりづらい場面が多いので男性向けという感じですね。
まるで意味のない報酬もない意味不明の公道レースに命がけって感じなので理解できないと思うのですが女子視点ならイケメン高橋兄弟に(*´Д`)ハァハァしながら読んでみるとかでもいいと思います。
読後はそこそこ車の名前とか覚えられますし。(男子の前では車に関して無知なフリをしたほうが女子力高い気もします)

ぶっちゃけ「違法競争型暴走族物語」と言えなくもないので…、あくまでマンガとして楽しんであまり目くじらたてないでほしいですね。
現実で側溝に車落としてみたり、ヘアピンのインで段差を落ちたりする人は現在ではもういないと思いますし。(昔はいたんだってさ)
溝に落とすのはラリーの世界では普通らしい…!!!

総評:売れているマンガは畑違いにとっても十分面白い

車を知らない私が面白いと感じているので、知っている人ならもっと面白いんでしょうね。
若者のクルマ離れなんて言っていますが、これ読んだらきっと車欲しくなる…はず!
スポーツカーブームなんて全然来る気配無いですが、車高いからねぇ。
正直、食わず嫌いでもったいなかったです。ぜひ読んでみてください。

ちなみにこの動画見て読んでみようと思いました。