電王戦の終結 -電王戦を手放すことは本当に将棋界のためになるのか-

電王戦を終えてしまって良いのか

角川歴彦会長、将棋電王戦の継続に意欲「FINALがFINALじゃないという声をあげて」と訴える(将棋ワンストップ・ニュース様)

こっそり将棋電王戦を観ている私。
電王戦というのはコンピュータ将棋と将棋のプロ棋士が戦うという異種?格闘技戦のような棋戦です。
今開催中の第四回将棋電王戦はFINALと銘打たれています。

FINALを願う人は?

これまで電王戦は誤解を恐れずに言えばプロ棋士の「ボロ負け」でした。

記念すべき第一回に米長邦雄会長(当時)が伊藤英紀氏の制作した将棋プログラム「ボンクラーズ」と戦い敗北。
その後第二回、第三回と人間が勝利したのは「第二回第一局阿部光瑠四段」「第三回第三局豊島将之七段」の二回のみ。
特に第二回のいわゆるA級棋士である三浦弘行九段が負けたのは正直かなりの衝撃でした。
A級棋士と言えばまさに将棋人口ピラミッドの頂点、その上には名人しかいないというまさに将棋世界最強の10人を指します。
タイトルにはあまり縁がないとはいえ長期にわたってA級に所属し続けることがどれだけ大変なことか私では想像もつかないほどのことです。(前期降格してしまいましたが…)

その後も屋敷九段に勝ったりコンピュータ将棋は対戦相手の棋力に関わらず無類の強さを見せます。
それでも私から見て「プロ棋士の権威」というものに一つの疑念も生じませんでした。

計算機に数万回の計算スピード勝負で敗れた数学者を誰が笑うのでしょうか。
新幹線に追いつけなかったウサイン・ボルトの才能を疑う人がいるでしょうか。
コピー機に模写速度で負けた絵描きは仕事を失うでしょうか。

私は比較的理系だからかもしれないですがコンピュータには負けて当然という思いが強いです。(コンピュータがなければ大学卒業できなかったほどです)
まぁ電王戦の開催以前に「プロ棋士とコンピュータどっちが強い?」って聞かれたらプロ棋士をある種 神格化している私は「プロ棋士」と答えたかもしれませんが…。
正直なところプロ棋士が負けて当然なんです。「ボロ負け」で当然。むしろ勝ちを二回も得たことが驚きです。上で書いたナンセンスな例えを実際に10回やって2回人間が勝ったという程の話なのですから。
このことから将棋連盟が恐れる「プロ棋士の権威失墜」はありえません。
ユーザーのほとんどは電王戦の終結を望んでいないはず…角川会長も継続したい、ドワンゴも継続したい、プロ棋士の一部も継続したいと考えているはずです。(理由は後述)
では誰が終結を望むのか…。

電王戦がもたらしたもの、失ったもの

電王戦がもたらしたものはとても大きいです。
まずは「将棋」という文字が新聞やニュースサイト、テレビにでかでかと出るのは久しぶりのことです。
電王戦のおかげで全く将棋に興味の無い層を取り込めていることは間違いありません。
きっと収益もそれなりにあることでしょう。

とはいえ、私が一番言いたいのは「プロ棋士に注目が集まった」ということです。
ハッキリ言って誰でも知っているプロ棋士なんて羽生善治名人ぐらいでしょう。ちょっと知っている人なら渡辺明棋王、森内俊之九段などですかねぇ。
タイトル戦に顔を出さない棋士なんて将棋を知らない人からしたら全然聞いたこともない人多いはずです。
電王戦では、コンピュータという強大な敵に挑む「人類の代表」として一人一人がクローズアップされました。
第二回第一局の阿部光瑠四段は将棋界でこそ「猛烈な勢いで昇段していった期待の新人」ですが、一般人からしたらC2というクラスもあり知名度は皆無に等しかったはずです。
井上門下の稲葉陽七段や菅井竜也六段や船江恒平五段も電王戦で有名になりましたし、A級棋士の中でも渋めの三浦弘行九段が注目されたりと電王戦で一気に有名棋士になった人は多いはずです。(三浦九段は当時の羽生五冠からタイトルを奪取したこともあるので知っている人も多いかもしれませんが)
NHK杯などでも電王戦に出ていた棋士側を持ってしまいがちですし。
正直衰退していくばかりと思っていた将棋というジャンルがマンガやニコニコ動画、インターネット対局でまた復権し出したことは将棋に少しでも触ったことのある人なら本当に喜ばしいことです。
プログラマーの人たちにもスポットライトがあたったことも喜ばしいことですね。

反面、何か失ったものがあるでしょうか?
なんの根拠もない「プロ棋士はコンピュータなんかに絶対負けない」という将棋ファンの気持ちぐらいでしょうか。
コンピュータを利用すればもっと深い読み筋、新定石が生まれるかもしれません。
将棋連盟のプライドが問題なのであれば、将棋という日本で育った知的スポーツの上に保身を重要視してしまうとってもがっかりな公益社団法人が乗っかっていると思われかねません。(相撲協会的)
電王戦を見て将棋を知った人たち、親子でインターネットで観戦して興味を持つ子どもが増えたりするのであれば「公益社団法人」として将棋の普及を第一に考えるべきです。

コンピュータは決して将棋を殺さない

将棋が今後人々に興味を失われて死ぬその時は、電王戦の前後ではその時期が大分違っているはずです。
電王戦がなければ将棋の死は以外に近かったかもしれません。今の中高年の将棋好きが死に、若い将棋ファンが減少し死に絶えていたかもしれません。
しかし電王戦はパッと見は明らかに「毒薬」でしたが、将棋という知的スポーツの延命薬となった可能性は極めて高いはずです。
コンピュータは将棋を殺しませんし、プロ棋士の権威も失墜させません。将棋の生死を握っているのはあくまで将棋連盟だと言えるでしょう。

電王戦継続の英断を

将棋電王戦は、どの棋戦よりも世界中が注目し人々が期待する棋戦になりました。
名人戦がすごいのは百も承知ですが、一般人がふと「観てみよう!」と思う棋戦は電王戦でしょう。
今後、将棋が生き残るには絶対に電王戦は必要です。
クラスタ禁止の時のようにPCの性能を縛ってでも、コンピュータとプロ棋士が戦う大きな棋戦があってもいいのではないでしょうか。
どのような形でも構わないので5vs5の電王戦の継続を強く望みます。

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