『SPOTLIGHT 2018』全試合ベストバウトの通り最高の一本

”全試合ベストバウト”

SPOTLIGHT 2018 [DVD]

発売日に買って何度も見返している『SPOTLIGHT 2018』。
知らない人に説明するとこれはMCバトルというラッパー同士がフリースタイル(即興)で戦う大会がDVDでになったもの。
日本には有名な大会がいくつかあり、KOKやUMB・戦極に次ぐ大きな大会だ。

好評だったようで当初は供給が若干不安定になりAmazonなどでは入手が少し難しかったが今はちゃんと在庫があるので安心だ。
日本の有名なMCが集う凄まじい戦いが楽しめる一本だ。

筆者はとてつもなく”にわか”です。
偉そうに書いていますが何もわかってないのでどうかご容赦ください。
また文章中で敬称は略させていただきます。
結果についてのネタバレなどもありますので、どうかDVDでを購入してからご覧になってください。

注目の対決

個人的な1回戦~3回戦までの注目したい対決を書いておく。
今回は”全試合がベストバウト”の言葉通りだった。

・じょう VS 呂布カルマ
気合も勢いも十分でやりたい放題でスタートダッシュを決めたじょうに流れが一気に傾く。
しかしすこしずつジリジリと迫ってくる呂布カルマという構図はまるで映画の『激突!』のようだった。
追いつかれたのか、それとも逃げ切ったのかはぜひDVDで!

・ミステリオ VS 裂固
フリースタイルダンジョンで大暴れしたミステリオと敗北を喫した裂固の戦い。
ミステリオが序盤から全力でお客さんを盛り上げるなかで裂固だけが不敵な笑みを浮かべている。
1バースで流れを持っていくミステリオに裂固はリベンジを決めることができるのか。

・キョンス VS 裂固
年齢が近くスキルに定評のある若手二人が激突した試合。
若手と言いつつも00世代の台頭などでもうすぐ中堅と言ってもいい実力と実績のある2人だが立場はやや対照的だ。
片や高校生ラップ選手権やSPOTLIGHT・SoRで優勝、音源でも結果を残し地上波で活躍する実力で結果と名声を掴んだ若手のホープでモンスター。
片やスキルも実力もプロップスも申し分ないのに、大きな結果だけがついてこない。
2016年のSPOTLIGHTでは並み居る強敵をお互いに倒し決勝で激突。裂固が勝利し優勝とKOKの切符を持っていかれてしまっている。
2017年でも対決し3回戦でキョンスが敗れている。
二度あることは三度あるのか、それとも三度目の正直か。

そしてベスト8以降は全てがベストバウトの中のベストバウトだった。
全部書きたいがあまりネタバレしすぎたくもない。
特にふぁんく・裂固・呂布・JAKE・RAWAXXXの出てくる試合は信じ難いが全てベストバウトだ。
ぜひDVDで確認してほしい。

注目のラッパー

・裂固
裂固は間違いなくゾーンに入っていたように見えた。
ダンジョンでも一気に成績が良くなり始めた時期と合致するのでこの頃(2018年末)あたりから2~3段ぐらいギアが上がったのかもしれない。
年齢が近い相手に対しては特攻レベルで刺さる安定感、格上を相手にしてもガッツリ戦える。
ただし年上でしかも尊敬している相手には気合が入りすぎてしまうのか若干苦手としているようだ。(年上なんて誰でも苦手だろうが)
裂固は少し相手を小馬鹿にするぐらいの余裕があるときのほうが強いように感じる。

・呂布カルマ
呂布カルマは誰が止められるんだ?というほど空間を支配していた。
弱点がまるで見えない底知れなさは一種の異様な雰囲気を生み出し、一言一言の”重み”が凄まじい。
呂布カルマも人間なのでバースの途中で時々お客さんが沸かないときもあるが、自分のバースの終わりあたりで確実にハードパンチを放つので安定感が凄い。
バースの頭と終わりでパンチラインを放つ仕組みはバトルではとてつもなく有効なようで、個人的にこの戦法は最適解なのではないかと思う。

・ふぁんく
そんな呂布カルマを止められそうだったのがふぁんくだ。
ふぁんくはもともととてつもないスキルとユーモア、そして格闘技で言うところの”当て勘”を持っているラッパーだ。
のらりくらりとパンチを避けつつ、相手にはテクニックに裏打ちされた有効打を決め続ける。
相手やビート、気分に合わせてスタイルを変えて戦うこともできる多芸さでまさにラッパー界の総合格闘家といった印象だ。

・RAWAXXX
言わずと知れたアンダーグラウンドのリアルなラッパー。
韻のために無駄なワードは吐かず、言いたい言葉をキッチリラップにする実力者。
それでいて抜群のリズムキープでどんなビートでも速度自在で乗りこなす。
大衆迎合的な”ラップ”ではなくて表現者としての”HIPHOP”をステージ上に体現する存在。
生き様すら武器になっているため呂布カルマと並んで優勝候補だ。

決勝戦(ネタバレ注意)

1st Roundは達人同士が間合いを取り合うような感じで深い展開にはならなかった。

実はこの第一ラウンドはYoutube上でも公開されているので未視聴の方はぜひ見てほしい。
決勝戦の1/3とはいえこれが無料で見られるというのはとてつもなく太っ腹だ。
ビートは韻踏合組合の”王手”だがニワカな筆者にとってはバトルビートとしてはちょっと珍しいように感じたし、乗るのも難しそうに聞こえる。
しかしご覧の通り二人共それぞれのスタイルでキッチリ乗りこなしている。
内容的にはRAWAXXXが「お前この場所に出てくるなよM***** F***er。テレビがお前の現場なんだろ?ここは現場だ帰る場所じゃねえんだよ。」とテレビに出ている呂布カルマに対して現場へ来るなと文句をつける。
HIPHOPの世界ではテレビに出たりメジャーになったりすることを”商業主義的”だとしてあまり好まない傾向があり、ここ数年でテレビで見かけるようになった呂布カルマに対する痛烈なDisだ。
しかし呂布は「俺はテレビに引っ越したわけじゃなく、テリトリーを広げただけなんです。未だに地下でもやってる。」とあくまでアンダーグラウンドと表舞台のどちらも清濁併せ呑んでいるMCなのだとこれまた痛烈な反撃。
これは言葉だけではなくCDも売れてテレビで顔も売れている呂布カルマがKOK・UMB・SPOTLIGHT・戦極といったMCバトルの大会に精力的に参加して結果を出しているからこそのアンサー。
R-指定とのバトルで「発言がブーメランだ」と言われたとき「ブーメランは確実にお前の首を切り裂いてこの手に戻ってきてる」(うろ覚え)という返しがあったが、とにかく呂布カルマの弱点のように見える部分を刺しに行くと的確に反撃されるのだから恐ろしい。

2nd Roundはアカペラ。
先攻の呂布は「お前の言葉はどこまで届くんだよ?ラジオでもかからねえ、CDも店じゃ見つかんねえ。」とアンダーグラウンドの弱点を強烈に突きに行きます。
後攻のRAWAXXXは呂布が最後に「借金だけ増やしてるやつは…」と言ったことが引っかかったようで「裏とれてんの?」と問いかける。
1st Roundで改名を認めずMOL53と呼んだ呂布に対してお前もヤングたかじんって名前でやってたじゃんという”確かに”という返しは見事だった。
とにかくアンダーグラウンドでやるってことはお金ではなく音楽と向き合えるかという部分が重要なようで、その姿勢はまるで修験者のようだ。
”売れるために頑張る”というハングリーな考え方もかっこいいが、アンダーグラウンドに骨を埋める覚悟もまた凄まじい。

3rd Round。
1バース目に後攻の呂布が小節を読み間違えてしまいビートだけが流れる状態になるが、RAWAXXXは「まだそっちの番だよ」という感じの穏やかなジェスチャーで続きを促し、自分のバースでもミスをしつこく指摘することもなかったのはかっこよかった。
逆に戦極では数え間違いを指摘されて流れを持ってかれていることを考えれば、もしかしたらそこを突っ込めばRAWAXXXにとっては追い風になったはずだ。
将棋の世界では対局を「棋譜」として記録するわけだが、お互いが最善手を指し合うことでそれは唯一無二の「芸術品」になるという考え方がある。
ミスを咎めそこを攻めるのではなくMCバトルという即興と即興のぶつかり合いで生まれる芸術作品をより完璧なものになるようにしようという姿勢が、ある意味で勝ち負けを超えた視点を持つアーティストならではの部分なのかもしれない。

この後にふたりの間でほんの少し接触があったことがKOKの出場者インタビューで明かされたが、ステージ上ではキッチリ仕事をする二人は本物のエンターテイナーだと感じた。

あえて勝敗は書かないようにした。
ぜひDVDで見てほしい。
一緒に戦極とKOK、U-22やUMBのDVDも買おう。

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