次元大介役の小林清志さんの勇退で『ルパン三世』は”テセウスの船”となるのか?

ただの雑記です。



『ルパン三世』は説明不要の国民的アニメである。

飄々としていて憎めない怪盗「ルパン三世」
堅物だが情に厚い「石川五エ門」
美しくミステリアスな「峰不二子」

そしてクールで早撃ちの名手「次元大介」

その次元大介役の小林清志さんが10月10日の『ルパン三世 PART6』の初回放送『EPISODE 0 ―時代―』の放送をもって勇退されました。
88歳まで実に50年ものあいだ、パイロット版から変わること無く演じ続けられた次元大介という存在はもはや日本人にとって「クール」の代名詞とも言うべき存在にまでなりました。

最後の出演も最高にかっこいい声で、最高に素敵な次元大介でしたね。

さて今回の声優交代でついにルパン三世のメインキャラクターに声を当てた”オリジナルメンバー”はいなくなってしまいました。

オリジナルメンバーのいないルパンは”テセウスの船”か?

有名なパラドックスのテーマに「テセウスの船」というものがあります。
テセウスがクレタ島から帰還した船をアテネでは後年まで大事に修理し続けていたが、木材が腐ったり傷んでしまったので幾度も修理した。
その結果、修理のし過ぎで全てのパーツが入れ替えられてしまった。

すべての部品が置き換えられてしまったとき、その船は果たして「テセウスが帰還した時に乗った船」と言えるだろうか?というものである。

これは今のルパン三世にも言えるはずです。
ルパン三世役の山田康雄さんの急逝をはじめ、ルパン三世を演じた俳優は徐々に交代していきました。
ルパンはもちろん、石川五エ門、峰不二子、銭形警部は2011年に一気に交代。
今回の交代でついにすべてのキャストが”世代交代”となりました。

常にルパン三世という船の竜骨を担ってきた次元大介と小林清志さん

テセウスの船が「テセウスの船」であるために、小さな部品でも構わないからどこかにオリジナルの存在はあるべきと考える人も多いはずです。

そして『ルパン三世』もオリジナルである小林清志さん演じる次元大介の存在が、いくつものキャスト交代という荒波を超え続けるために大事な存在だったのです。
それは小さな部品などではなく、まさに船にとっての背骨である竜骨のような存在だったはずです。

ルパンの声が山田康雄さんから栗田貫一さんに変わったときも、次元大介たちがいたから「ルパン三世」としてまた歩き出せた。
2011年に一度に3人が交代して声が変わっても、いつもの小林清志さん演じる次元大介がいたからルパン三世として違和感なく成立した。

常にオリジナルの次元大介がそこにいてくれた。

そんな大きすぎる存在が、今日勇退されたのです。

テセウスの船である必要はない

さて、ここまで長々と話していたのですが実は『ルパン三世』がテセウスの船である必要はありません。

実を言うとこの記事を書き始めたのもTwitterで「もっと早く交代させろ」だの「声に張りがない」だの言う声と「(次の次元大介役を演じる)大塚明夫じゃ違う」みたいなごく少数のつぶやきを見て私が勝手にイライラしたからです。

結論から言えば「テセウスの船である必要はない」と私は思っています。
船とはつまり陸から陸へと移動する手段です。
その機能が損なわれていなければ、それが必要な修理であれば魔改造の結果アヒルさんボートになろうとテセウスの乗った船だと胸を張って言うべきです。
その結果「これはテセウスの船じゃない!」と言われても気にしなくて良いのです。

そしてそれは『ルパン三世』にも言えます。
これまでの次元大介に最大限の感謝をしつつ、オリジナルメンバーのいなくなったルパンを楽しめばいい。
その結果「やっぱ小林清志さんの次元はすごかったなあ」となるのは仕方がないことだし、それはルパン三世の長い歴史の中で幾度も繰り返されてきたこと。

これまで小林清志さんがいてくれたから成立したキャスト交代と同じように、すでに定着した他のキャストがしっかりとルパン三世の世界を作り出してくれるはずですし大塚明夫さんの次元もきっともの凄いはずです。

何よりもアニメは「面白いかどうか」のほうが本質的に重要です。
今回の『ルパン三世 PART6』は奇しくもオリジナルメンバーがいなくなったタイミングで”原点回帰”をテーマに制作されているそうです。

山田康雄さんと共にもしかしたら無くなっていたかもしれない『ルパン三世』が現代まで脈々とバトンを受け継いで続いてきてくれたことに感謝しつつ、最新作を楽しみに待ちたいと思います。
50周年おめでとうございます!
そして小林清志さん、ありがとうございました!
まだまだナレーションなどで素敵な渋い声を聞けることを願っています。

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