「長く短い祭/神様、仏様」 椎名林檎

繰返される諸行無常 よみがへる性的衝動
(いつも通り)遅ればせながら椎名林檎さんの両A面ニューシングル「長く短い祭/神様、仏様」を聴きました。
大変恐縮ですが以下敬称略でお願い致します。

長く短い祭りでのエフェクトが生み出すシナジー

1曲目の「長く短い祭り」を語るのならばオートチューンでかけたエフェクトの評価の話は避けて通れないでしょう。
ボーカルである椎名林檎と浮雲の歌声にはオートチューンというソフトによって音程補正加工がされています。
当然ですが○○○○歌手や○○歌手のようにあまり歌が得意でない人が歌う際に音程を合わせるためにオートチューンで補正しているのとは違います。
あえてロボット・シンセっぽいエフェクトをボーカルに乗せるために利用しているわけですね。
オートチューンをポジティブに利用しているグループといえばPerfumeがわかりやすいでしょうか。
あえて音程をずらして歌ってオートチューンを使用することで独特のシンセ&ロボットっぽいエフェクトがかかるわけです。
多分知らず知らずのうちに聞いている邦楽にはコッソリ音程補正のために使用されているはず…たぶん。

念の為に言っておきますがオートチューンは現代のいわば「便利アイテム」であって使用することは決して悪いことじゃありません!
使用しているから悪い、使用しているから音痴なんて思いません。
補正目的で使うのはむしろ本来の使用目的ですから。
なので伏せ字の部分がわかっても怒らないで下さいね…。むしろ好きなんですよ…。

さて本曲でのオートチューンを使用したエフェクトですが…。
正直最初は「すごい加工してるなぁ」と思ったのですが…聴いている内に(というかソッコーで)全く気にならなくなります。
むしろまるで楽器のひとつのように曲に馴染んでいて違和感はまるでなくなります。
浮雲の「忘るまじ 忘るまじ 忘るまじ…」のところなんかすごい気持ちいいですよね。
途中のソロのところの「丁度大輪の枝垂れ柳蘇るひと世の走馬灯」のところなんてエフェクトで歌声ががほんっと最高!

椎名林檎が歌う「大人の夏」

夏休み!神社でお祭り!田舎で花火大会!海水浴!虫取り!
…そんないわゆる夏の楽しさとは全く違う、大人のための夏をかっこ良く歌い上げた「長く短い祭り」。
真夏、大都市東京、蒸し暑さでおかしくなりそうな日中から解き放たれたようなほんの少し風のある東京の夏の夜。
そんな何かが始まりそうな雰囲気が伝わってきます。
それはまさに大人のための夏。子供のための夏が終わった後に始まる混沌としたもうひとつの夏。
ちょっとナツがゲシュタルト崩壊気味ですが…とにかくアダルトな雰囲気がたまらないということですね!

まるで映画の予告編のようなPV


題名通りまるで映画の予告編のようなPVでしたね!
ショートカットの綺麗な女性がミステリアスでよかったです。

(ここからネタバレです)
さてPVのストーリーですが、女性と男性が登場人物。
冒頭はバスタブから溢れ出る水。
女性が手を洗い、着替えをし、外へと出かけていきます。
シャープなドレスをきた女性は街を歩いていきます。
たどり着いたのはクラブ、そこで今までの雰囲気からは考えられないような激しい感情を表現するようなダンスを無表情のまま踊ります。
そしてクラブを後にしてタバコをふかしながらまた街を歩き出し、公園にたどり着きます。
公園でも狂ったように激しく踊りだします。
そして映像は変わり縛られた男性がバスタブに入っている姿、キスをし、狂ったようにシャワーヘッドで殴り、踏みつける姿がカットインしてきます。
また映像は公園に戻り踊り疲れた彼女の顔を照らす赤色灯、背後の刑事らしき男。
彼女はどこか開放されたような表情。

後半の男性のカットの部分がPVの冒頭の時間軸より以前に起こったことであり、冒頭のバスタブから溢れ出る水は「死」を強く意識させます。
なので何も知らずに見る1回目は「綺麗な女性が身支度をしてクラブに出かけるPV」
2回目は「どこか暗い表情の女性が男性を殺した後に執拗に手を洗い突然外に出かけ踊り狂うPV」
という作りになっているのです。
なので視聴者は1回見たらもう二度と「1回目見た時の純粋な気持ち」には戻れない…。
そんな不可逆な「喪失」のようなものを強制的に与えられてしまうのです。(下品かもしれませんが処女性のようなものとも言える)
「天上天下繋ぐ花火哉…忘るまじ我らの夏を」
「”天上天下繋ぐ”とはPVの冒頭と終わりの繋がり」、「”花火”はその一瞬の美が殺人という一瞬の出来事を表し」、「我らの夏の”我ら”とは登場人物の女性と男性と視聴者の自分自身」ということではないでしょうか。
女性と男性の関係はわかりません…恋人なのか不倫なのか、それとも病的に好きな男性を監禁してしまったのか…。
タイトルの「長く短い祭り」というのも「長い関係があったけど終わる時は一瞬だった」ともとれますし。

そして百鬼夜行「神様、仏様」へ


こちらは初見がPVだったので早速PVから。
冒頭の向井秀徳の「繰返される諸行は無常」は「自問自答」という曲の一節ですね。
今作ではラップという形で参加しています。
our musicという番組でのセッションが好評でしたし椎名林檎が向井秀徳の大ファンなのでこのコラボはファンにとっても嬉しいですね。
PVでは虚無僧姿の二人組が椎名林檎率いる「百鬼夜行」を倒そうとするという構成で進みます。
虚無僧側は1人がお経を読み、もう一人が尺八を吹いています。お経は「繰返される諸行は無常 よみがへる性的衝動 …」という向井秀徳にラップ。
狐っぽい椎名林檎は仲間?しもべ?の妖怪をドンドン登場させて虚無僧と対峙します。
かなり迫力ありますよw
1:05あたりのトロンボーン持った大正時代っぽい軍人みたいな人とかマジでかっこ良すぎです…。
もちろん浮雲とヒイズミマサユキもメッチャかっこいいですね。
日本妖怪だけじゃなくてちょっと中国の道士っぽいのもかっこよかったです。
なにより椎名林檎美人すぎ…!
SFXが凄すぎて魅入ってしまいますね!
椎名林檎の左右の巫女さんもかわいいし…中盤のホーン・セクションの二人組もいい味でてましたね!平成狸合戦ぽんぽこ風味!

意外なことに神様、仏様を延々リピートで聞いてしまう

最初こそ「長く短い祭り」を聞いていたのですが意外にも「神様、仏様」の再生回数が伸びていきます。
どうやら聴きやすいようで、ダブルスコアぐらいの差ができています。
もちろん「長く短い祭り」を悪く言う訳じゃなくてまさに「両A面」の名に違わぬ素敵なCDでした!