マンガ界の三大奇書?不思議な世界観のマンガをご紹介

摩訶不思議

非日常へ気軽に足を踏み入れることができるマンガが好きなALVAです、こんばんは。
今日は「日本三大漫画奇書」と題して、不思議で素敵なマンガ3冊をご紹介します。
奇書というとネガティブなイメージをお持ちになるかもしれませんが、当ブログではポジティブな意味で用いております。

主に不思議な世界観のもの、不思議な世界観にも関わらず説明が殆ど無いもの、私達にとっては非日常だけど作中の登場人物にとっては日常であるものなどをご紹介します。
ちなみに私はホラー系の知識が浅いので、今回は除外しました。ホラー系の場合3冊に絞れないほど奇書で溢れておりますので気になる方はぜひチェックしてみてください。

①『血潜り林檎と金魚鉢男』

新装版 血潜り林檎と金魚鉢男 1 (アース・スターコミックス)

まさに奇才と言うべき『まこら』や『バニラスパイダー』で奇想天外なお話を描いた阿部洋一先生の手によって描かれるどこか懐かしい日常の風景に溶け込む違和感の塊のような”金魚鉢男”。
冒頭から当然のように現れる頭部が金魚鉢の男、通称”金魚鉢男”とスクール水着でモデルガンをぶら下げた”血潜り”を自称する少女”林檎”。
まさに題名の通り「血潜り林檎と金魚鉢男」が登場します。
雨上がりの晴れた日に血の匂いに惹かれて現れる金魚鉢男に血を吸われると金魚になってしまうというイカれた世界で主人公である少年”昊介”と”林檎”が被害者を救うために走り回るホラーテイストアクション。

阿部先生の描く雨上がりの暑いジメジメした空気感が独特で、夏のうだるような日差しとその影となるあまりにも深い闇が混沌としたコントラストを生み出しています。
夏の日常に溶け込む金魚鉢男の目的も人を襲う理由も血潜りとは何かという部分もまるで語られることはなく、ただただ多くの謎とそれを飲み込んででも読み進めたくなる魅力があります。

ただし終わり方は当初の想定どおりとは思えないような気もしていて、そこだけ気になります。

②『動物たち』

動物たち
どう考えてもおかしいけど、妙に納得させられてしまう。
いややっぱりこんな日常はおかしい……けれどどこか懐かしい気もする。
そんな不思議な気持ちにさせられるのがpanpanya先生のマンガです。

今回は『動物たち』を選びました。
本当はこれまで刊行されてきた5冊(たぶん)はすべておすすめしたいのですが、その中でも私自身初めて出会った『動物たち』を選んでみました。

登場人物は女の子。
彼女に関して出生や生い立ちはもちろん年齢や職業などの情報はありません。
時に会社員だったり、時に婦警さんだったりと話をまたいでいる場合、同一人物かどうかすらわかりません。(だいぶ未来の彼女も出てきます)
背景は非常に緻密で恐ろしいほどですが、登場人物はまるで絵の上手い人がササッと描いた落書きのようです。
それでも彼女に感情移入したり、逆に「そんな反応でいいの?」と心配になったりと物語の主人公としてしっかり動き回ります。
逆にシンプルに描かれているぶん、文字で表現しなくても彼女のシンボリックな表情から感情が簡単に読み取れるのかもしれません。

登場人物たちにとっては日常なのでしょうけど、突然変な頭の形をした人が出てきたり、不思議な生態の動物が出てきたりします。
ですが彼女やこの世界にとってそれは日常で、私達から見ると奇想天外&荒唐無稽といった状況もそれが日常である側からすれば、それに対して非日常だと思っている私達のほうがおかしくて、結局日常っていうのは外から見ると非日常で……あれ、こんがらがってきた。

ひとつひとつのお話が独立した短編集のようになっていて、全体にゆるく共通のテーマがあるようなないようなといった感じなので、夜寝る前に一話ずつ読んでいったり、気が滅入ることがあったら一話読んでみたり、雨が降ったら一話読んでみたりするのもいいかもしれません。

お話とお話の間にちょっとした文章があり、作者さんの日常なのかそれとも主人公の「私」の日常なのかはわかりませんが、言葉遣いがとても小気味よく共感できるようなできないような素敵な内容で大好きです。
「愛着がしくしくこみ上げてきて…」などの言い回しが独特です。

奇書らしくこの本についておもしろさを説明するのはかなり難しく、どうせなら先入観なく読んでもらいたいと思います。
私の場合は友人が遊びに来た時にちょうど本屋さんで買ってきたらしく読み終わると「この本はオススメするべきか迷ったんだけど、読んでみない?」といつもストレートにマンガソムリエってくれる友人がおすすめするべきか悩んだというのが面白かったので、借りてみたらすごく惹かれてしまってその日のうちにAmazonで注文しました。
友人曰く「おすすめという出会い方でいいのか悩んだ」とのことで、マンガ自体の面白さは言わずもがな、本との出会い方まで気にしてくれていたようで嬉しかったです。

 ③『てるみな』

てるみな 1―東京猫耳巡礼記

おかしい、不気味、不思議、怖い、緊張、違和感…。
様々な気持ちが去来するあまりにもおかしな世界観のマンガがkashmir先生の描く『てるみな』。
ある日突然猫耳が生えてしまった少女が、電車に乗って色々なところへお出かけするという一見何の変哲もないほのぼのマンガなのです。
しかしページをめくればそこには狂気の世界が待っています。
例えば電車の線路が民家に近いときに「まるで民家の軒先をかすめるように走る――」というような表現があると思いますが、このマンガでは本当に削っていきます。
最初は少しですが、最後は明らかに家1軒吹き飛ばしてるとしか思えない描写がされています。
切符がないおっさんは首を絞められ、電車は半潜水し、すれ違う通勤電車には目や口から血を流す戦死寸前の企業戦士がこちらをじっと見つめています。

明らかにおかしいので、おかしいのがもう当然です。
おかしくないページはお話とお話の間に出てくる作者さんのようなサラリーマンが出てくるところぐらいでしょう。
あまりに全てがおかしいので、狙いすぎている感はありますがだとしてもおかしすぎます。
読んでいる最中は色々な気持ちや感情が出てくるのですが、読み終わったときの感想は「作者さんは電車が好きなんだなー」だけになっちゃうぐらいのダメージです。

いかがでしたでしょうか。
「もっとヤベーのあるよ!」というご意見もあるかと思いますが、私にはこの辺が限界です。
特にすぷらったなやつはダメなのです。
個人的にこの中で一番好きなのはpanpanya先生の作品です。
おそらく商業からは全巻持っているはずです…多分。
あの日常と非日常の混ぜ具合がいいんですよね。
実は今回の紹介順はその比率で決めました。
『血潜り林檎と金魚鉢男』は日常メインでそこに金魚鉢男と血潜りという非日常が2:1ぐらい。
『動物たち』は日常と非日常が1:1~1:2ぐらいという感じでバランスが最高。
『てるみな』は1:10ぐらいで非日常の圧勝という感じです。

個人的にはあまりにも多くの非日常は完全にフィクションとして読めるのですが、『動物たち』ぐらいの比率だとふいにそんな非日常の世界に足を踏み入れてしまうのではないかと、急にぐっと身近に感じられて怖いような気がするのです。
これは洋館モノのホラー映画よりも井戸から女の人が出てくるほうが怖いのと似ていますね。
銃が出てきても怖くないですが、包丁は怖いのです。

さて、そんなわけで今回この記事を書くきっかけとなったのがpanpanya先生の最新作『二匹目の金魚』です。
先月末に発売され、もう何度も読んでいます。
装丁などもとても凝っていて、紙も良いのか読んでいると匂いすらたまらないのです。(やばい)
手触りもいいし、大好きなので30°以上開いて読めないのが難点です。
もう1冊づつ欲しくなるのですが、マンガ好きとして保管用と観賞用なんていう考えは持ちたくないような気も…。

ということでもし機会があれば、どこかの書店様で劇的な出会いなどありましたらぜひ読んでみてください。

二匹目の金魚